根尖病巣がある場合、基本的に根管治療が治療法の第一選択となります。
しかしながら、様々な条件により再根管治療ができない、あるいは再根管治療では治癒しない場合があります。
例えば
●太くて長いコア(土台・支柱)が入っており、外すことが出来ない
●根尖部でファイルなどの器具が破折していて、除去できない
●根尖部でパーフォレーション(穿孔:せんこう、人為的に穴が開いている)している
●根尖部で根管が石灰化しており、根尖まで清掃・消毒ができない
●側枝(歯の神経の横穴)があり、治癒しない
●被せ物を入れたばかりで、外すことを患者さんが望まない
●被せ物が繋がっており、外すことが出来ない
●すでに歯根端切除がしてある歯の根尖病巣の再発
など
このような場合には、外科的歯内療法(歯根端切除および逆根管充填)が適応になります。
初診時レントゲン。上顎右側1番に痛みと歯茎の腫れを訴えて来院。当該部は隣の歯と2本繋がって被せ物が装着してある。歯根の長さが左右非対称で、当該歯は反対側と比べて明らかに短く、根尖部(歯根の先端)は水平的に切断されている。根管充填は不十分で、根尖部には根尖病巣と思われる黒いレントゲン透過像を認める(矢印)。被せ物を外して再根管治療を行うことは、抜歯になるリスクが高いケース。患者さんと相談し、外科的歯内療法(歯根端切除および逆根管充填)を行うこととした。
術前CT画像。根尖部の骨は吸収し、黒いCT透過像を認めている(矢印)。問診において、過去に歯根端切除を受けていることを確認した。根管治療がきちんと出来ていない場合、歯根端切除だけをしても根尖病巣は治癒しない可能性が高い。
根管治療がきちんと出来ていない場合、根管内にはバクテリアおよび腐敗組織が残存しています。
しかも、ほとんどの場合において、根管内に詰められている根管充填材は疎で、緊密に詰まっていません。
このような状況下で歯根端切除だけを行っても、バクテリアや腐敗組織な無くならず、その後も炎症を起こし続けます。
さらに、保険制度の悪いことに、歯根端切除の保険点数は比較的高めであるため、より難しく手間がかかうえ、点数の低い再根管治療をきとんと行おうという歯科医師は少数派になってしまいます。
現在、歯根端切除をした場合には、歯根の先端から根管内を超音波で清掃してMTAセメントを詰める逆根管充填をセットで行うことがグローバルスタンダードとなっています(解剖学的に、大臼歯部では逆根管充填が出来ないことも少なくない)。
これを正確に行うためには、マイクロスコープやMTAなどをはじめ、専用の器具や薬剤、専門的で高度な知識や技術が必要になります。
保険では、歯根端切除は必ずしも逆根管充填を行うことを要件としておらず、MTAなどの予後の良いとされる薬剤の使用も出来ません。
したがって、保険で行う歯根端切除は予後が悪いのです。
外科的歯内療法の術後6か月。過去に一度歯根端切除が施術されているため、さらなる歯根端切除は歯根長がかなり短くなって歯の寿命に直結する。このため、根尖部の削除は最小限におこない、MTAにて逆根管充填を行った。根尖部には歯槽硬線(白線)を認め、骨の再生がうかがえる。歯の痛みや歯茎の腫れは完全に消失している。
術後6か月CT画像。術前にあった根尖部のCT透過像は顕著に縮小し、骨が再生していることが分かる。
本来、はじめから自費でしっかりと根管治療を行っておけば、根尖病巣を生じる可能性は低いのです。
しかしながら、多くの患者さんは根管治療の難しさや保険制度の限界、自費という治療法の選択肢をご存じありません。
多くの方が、かかりつけ医での治療がうまくいかず、抜歯を宣告されてからネットで調べてはじめてこれらの真実を知ることになります。
歯で思い悩む前に、どうか根管治療の重要性や治療の難しさを知っていただきたいと切に願っています。
治療費:歯根端切除・逆根管充填:¥55,000/1根
治療期間:2週間
治療におけるリスク:外科的処置なので、術後に腫れや痛み、内出血を生じることがあります。治癒率は100%でありません。大臼歯部では、解剖学的要件により適応とならないことがあります。
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日付: 2024年2月12日 カテゴリ:コラム, 根管治療