前歯の変色を主訴にお見えになる患者さんは少なくありません。
最近、特に多いのが、歯髄壊死(しずいえし)後の歯の変色です。
歯髄壊死とは、歯の中にある神経(これを歯髄という)が何らかの原因で死んでしまう(壊死)ことを指します。
原因の多くは、深い虫歯や虫歯治療後、外傷により(多くは歯を強くぶつけることによる)歯の打撲や脱臼、歯のクラック(ひび割れ)、咬合性外傷(過大な噛み合わせ)、重度の歯周病、深いくさび状欠損(歯と歯茎の境目の窪み)、稀に矯正治療によるものなどがあります。
多くの場合、変色する以前に、歯に痛みやしみるなどの症状があったと思われます。
しかし、様子を見ているうちに痛みやしみる症状が無くなったため気にも留めずにそのまま放置し、気が付いたら歯の色が暗く(茶色く)なってしまったというパターンが多いようです。
初診時。右側(向かって右)の上顎前歯の変色を主訴に来院。歯髄壊死による歯の変色が疑われる。診査・診断のためにレントゲン撮影を行う。
初診時レントゲン像。歯と歯の間に大きなレジン(白い詰め物)が充填されており、歯根の先端に黒く大きなレントゲン透過像を認めた。歯髄壊死による典型的な根尖病巣。臨床的には、変色以外の症状(腫れや痛みなど)はまったくない。きちんと根管治療を行わないといずれ抜歯になる。
根管の中にファイル(針状の治療器具)を挿入し、歯根の長さと方向を確認しているところ。ファイルが歯根の先端までピッタリと届いているのが分かる。根尖病巣が大きいため、数回根管治療を行い、十分に清掃・消毒を行う。
根管治療終了時レントゲン。歯根の先端までしっかりと緊密に白い薬が入っているのが分かる。歯根の先端にある根尖病巣によるレントゲン透過像は数か月単位で徐々に小さくなっていくので、定期的にレントゲンによる診査を行う、経過を追う。薬がしっかり入っていないと、ウォーキング・ブリーチの際に薬剤が漏れ出して、歯根吸収(外部吸収)を起こすリスクが高くなるので注意が必要。
ウォーキング・ブリーチ後。暗かった歯の色は、歯を被せることなくきれいに漂白された。何よりも、根管治療をきちんと行うことが、歯を永く持たせるためには重要。
ウォーキング・ブリーチが適応か否かは、残っている自分の残存歯質の量によって、また歯の変色の程度によって決まります。
あまりにご自身の歯が薄い場合や、歯の変色が極端に強い(黒すぎる)場合には、セラミッククラウンによる治療が望ましいでしょう。
いずれにしても、まずは担当の先生にどのような治療方法が最善か、ご相談してみると良いでしょう。