歯の治療は、治療計画と治療技術でその成否が決まるといっても決して過言ではありません。
患者さんとしては気になるところだけを治したいと考えていても、実際の治療を行う上で患者さんの希望にあった治療を行うと、予後が悪いと判断されることが少なくありません。
そのような場合には、率直に、専門的なことをなるべく平易にお伝えするように努めています。
そして、いろいろな治療のメリット、デメリットをご理解いただいたうえで、治療方針を決定していくことになります。
治療の予後はとても重要ですが、治療をお受けになるのは患者さんご自身であり、治療結果を最終的に受け止めなければいけないのは患者さん自身に他なりません。
患者さんにも、さまざまな事情やご希望があることでしょう。
それらも踏まえたうえで、最善と思われる治療計画や治療方法を選択することが重要であると思います。
では、実際の治療例を示します。
治療前正面観。上顎前歯部の審美修復を主訴に来院。
咬合高径の低下(噛み合わせ高さの減少)と左側(向かった右)の反対咬合を認める。
患者様は、逆流性食道炎のため長年通常の食生活を送れず、炭酸飲料を常習。
このため、酸蝕症により歯が溶けて咬合口径の低下を招いたものと考えられた。
側方面観。噛み合わせが低くなっているため、このまま前歯だけを治療しても、満足のいく審美性の獲得と、治療効果の永続性を得られないと判断できる。
上下咬合面観。咬合面(噛み合わせの面)にも極度の摩耗が認められる。
極度の歯の摩耗により、噛み合わせにも異常をきたしているため、全顎(全部の歯)を補綴(ほてつ:被せること)して咬合再構成を行うこととした。
治療後正面観。上下左右の小臼歯間をジルコニアセラミック、大臼歯はゴールドクラウンで補綴した。
左側(向かって右)の前歯部~小臼歯部が反対咬合であり、噛み合わせと耐久性を考慮し、大臼歯はゴールドクラウンとした。
十分に咬合挙上された(噛み合わせ高さを高くした)ことで、審美的かつ機能的な補綴が可能となった。
術後側方面観。左側の反対咬合の欠点はあるものの、スムーズな顎運動が可能となるように咬合高径(噛み合わせ高さ)を設定し、咬合再構成(噛み合わせを作り直すこと)を行った。
術後咬合面観。術前は歯の酸蝕により不正な咬合面形態および顎運動を呈していたが、咬合再構成と補綴によって、機能的な顎運動と歯牙形態を獲得することができた。