歯並びは遺伝的な影響を強く受けると考えられています。
例えば、下顎前突(受け口)などはその典型で、ドイツ系貴族の家系であるハプスブルク家は、血縁制度を利用した政略結婚によって近親者の結婚を繰り返した影響により、18代・45人にわたり下顎前突が遺伝的に発現したことで知られています。
一方で、後天的な影響によって歯列不正が起こることもあります。
その一つに、食習慣や咀嚼の影響が挙げられます。
下顎の鞍状歯列弓。下顎臼歯が舌側(ぜっそく;内側)に倒れこみ、歯列が鞍状を呈する。歯列弓が狭いと舌を置く場所がなくなり、舌は後方へ追いやられる。この結果、気道が狭くなり、慢性的な酸素不足をきたしやすい。
奥歯が舌側に倒れこむのは、下顎の顎運動との関連が示唆されています。
顎運動には、下顎を主に上下縦方向に動かすチョッピング・タイプと、主に水平方向に動かすグラインディング・タイプ、そしてその両方を行うタイプに分けられます。
奥歯が内側に倒れこまず、きちんと真っ直ぐに萌出するには、グラインディング・タイプが有利であることが分かっています。
下顎がグラインディング(食べ物をすり潰す前後左右への下顎の運動)を行うことによって、臼歯部は正しく真っ直ぐと萌出するようになるのです。
これは、噛み応えのある食べ物をすり潰すときに行う顎運動です。
一方、あまり咀嚼しなくても食べられる軟食の場合には、下顎はすり潰す顎運動をする必要がありません。
このようなチョッピング・タイプが主体の咀嚼習慣は、臼歯部の正しい萌出が促されず、舌側に傾斜すると考えられています。
つまり、咀嚼習慣によっても歯列や歯並びが影響を受けるのです。
臼歯が舌側に倒れこむと、舌房(舌を置くスペース)が狭くなり、舌は必然的に後方(喉の方)に下がります。
舌が後方へ下がると、気道が塞がれ十分な酸素を取り入れることが難しくなります。
酸素不足の状態が続くと、頭痛やめまい、倦怠感、記憶力や集中力の低下など、体調不良を引き起こす原因になるのです。
特に、成長期の食習慣は非常に重要であり、栄養面だけでなく、歯並びや顔貌の左右対称性、さらには記憶力や精神の発達等、心身の発育に強い影響を及ぼします。
ぜひ、お子さんの食習慣を見直し、美しい歯並びや顔立ち、そして健全な心身の発育をサポートしていきましょう。